過去の研究会
第7回研究会プログラム
日時 | 2004.6.5(土曜)午後2時より |
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会場 | 於:信州大学医学部第二臨床講堂 代表世話人 松本歯科大学矯正歯科学教室 栗原 三郎 |
プログラム
開会 | 14:00 松本歯科大学矯正歯科学講座教授 栗原三郎 |
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総会 | 14:00~14:15 司会:信州大学形成外科 近藤 昭二 1.会計報告 2.第8回研究会の会長選出 3.報告事項 4. 会の名称変更について 5.その他 |
口唇口蓋裂治療ネットワーク化の進展状況 | 14:15~14:30 座長 長野県立こども病院形成外科 野口 昌彦 14:15~14:20 1.ネットワークの進展状況 信州大学形成外科 近藤 昭二 14:20~14:30 2.2003年の言語調査統計 長野県立こども病院言語治療室 土屋 直子 |
一般演題 | 14:30~15:00 司会:信州大学形成外科 杠 俊介 |
特別講演 | 15:00~16:00 司会:信州大学医学部形成再建外科学講座 松尾 清 |
閉会 | 16:00 |
一般演題
1."電話回線を用いたテレビ会議について
-日本とオーストリアにおけるテレビ会議の一例-"
松本歯科大学歯科矯正学講座 栗原 三郎、室伏 道仁、臼井 暁昭
インターネットのめざましい発達に伴い、近年開発されたテレビ会議システムには目を見張るものがあります。最近、大変に優れたテレビ会議に参加する機会に恵まれたので、その概要を説明し、口蓋裂患者に対する長野ネットワーク発展の一助としたく、発表いたします。 テレビ会議が行われたのは、神奈川歯科大学とオーストリアのドナウ大学歯学部であり、さらに米国ボストンの歯科開業医もこの会議に参加していました。その会議で用いられていたシステムはPolycom ViewStationシリーズのシステムでした。電話回線はISDNを2回線分使用しているために、データ転送の速度は充分なほど速く、コンピューター内の臨床データや発表者の顔の動的なデータでさえ、リアルタイムでほぼ問題なく転送されていました。しかしながら、一箇所のシステムの構築に2-3百万円必要なことと国際電話代が1時間3-4万円かかることなどが欠点と言えるでしょう。初期投資の問題点が解決され、県内でテレビ会議を行うには、非常に優れたシステムと言えるでしょう。
2.発達性読み書き障害を認めた口蓋裂2症例
馬込ことばの相談室、埼玉県立小児医療センター 岡崎恵子
上智大学 原 恵子
はじめに 発達性読み書き障害(developmental dyslexia) は全般的に知的発達に遅れはなく、視覚・聴覚機能が正常であるにもかかわらず、読み書きについてつまずきや習得の困難さを呈する状態である。口蓋裂児には非口蓋裂児より高率に発達性読み書き障害がみられるという報告がある(Rochmanら,2003)。今回、口蓋裂に発達性読み書き障害を伴う症例を経験したので報告する。
症例1 7歳3ヶ月男児, 左唇顎口蓋裂、3ヶ月で口唇形成、11ヶ月で口蓋形成術を受けた。鼻咽腔閉鎖機能は良好で、構音の習得も順調であったが、小学校入学後、平仮名の習得が困難なことがわかり、訓練の対象となった。WISC―?の結果はVIQ90,PIQ100,IQ94であった。小学校1年生の3学期に読めた平仮名は、自分の名前の3文字のみであった。文字習得の基盤となる音韻意識・音韻記憶に問題がみられ、現在、訓練中である。
症例2 9歳男児、両側唇顎口蓋裂 生後6ヶ月、6ヶ月で口唇形成、1歳2ヶ月で口蓋形成を行った。構音習得過程で、歯音、歯茎音のすべてに口蓋化構音を認め、4歳6ヶ月より構音訓練を施行した。訓練過程で3モーラ以上の単語の復唱が困難であり、6歳以降も平仮名の読みや書字、特に特殊表記の習得が困難であった。構音障害に発達性読み書き障害をもつと判断し、読み書きの訓練と平行してことばの教室に構音訓練を依頼している。
結論 口蓋裂児の中には、構音障害だけではなく、発達性読み書き障害を伴う症例があることを念頭に置き、長期にわたる読み書きの指導が必要である。
3.歯裂側切歯歯茎部の露出を減少させるgingivoperiosteal flapデザインの工夫
信州大学医学部形成再建外科学講座 成松巌、近藤 昭二、杠俊介、久島 英雄、篠原 洋、 矢野 志春、伴 碧、池上 みのり、島本紀子、松尾清
目的:顎裂部骨移植の整容的側面のうち、gingivoperiosteal flapの垂直的距離の不足により生じる、術後裂側切歯歯茎部の露出について、検討された報告はない。flapデザインを工夫して、この問題を解決できるかどうか検討した。
方法:非披裂側のgingivoperiosteal flapを比較的大きく、rotation advancementすることにより、歯茎部の被覆を行った。対象は片側性唇顎口蓋裂の6例6顎裂である。術前術後の裂側切歯歯茎部の歯乳頭の深さを、健側切歯の歯乳頭の深さを基準として比較した。
結果:手術後、裂側切歯の歯乳頭の深さは健側切歯の歯乳頭の露出が予防できた。露出歯牙の埋入による感染などの合併症は無かった。
考察:骨移植の大きな目的は、美しい歯列弓の形成にある。手術時に残存した裂側切歯歯茎部の露出は、長期に残りやすい。この方法は一つの解決策かもしれない。
特別講演
「口唇口蓋裂の矯正治療」
口唇裂口蓋裂長期治療例から学ぶ治療方針の選択について
東京医科歯科大学顎顔面矯正学分野教授 大山紀美栄先生
口唇裂口蓋裂に対しての包括治療が重要であることは衆知である。しかし、このような治療を円滑に進めるためには個々の症例において、初回手術前から成人に達するまでの長期に亘って、患者の両親、患者自身も含めてその治療に関与する人々がそれぞれお互いに治療の流れおよびその効果を把握し、理解する必要がある。
最近は特に治療技術が進歩し、術式や施行時期についての選択肢が多くなってきているが、形成外科あるいは歯科矯正処置が、その個体の形態や機能にどのような影響を与えるかについての理解は、短期間の経過観察では不十分である。過去の長期治療症例を振り返ってみることは、今後遭遇する症例の治療方針を決定する上で参考になることが極めて多いと思われる。
そこで今回は口唇裂口蓋裂長期治療例を提示し、個々の症例における治療の流れ、その影響ならびに効果について言及し、「いつ、どこに、なにを、どのように」行うべきか、御出席の方々と共に考える機会としたい。