過去の研究会
第3回研究会プログラム
日時 | 2000.1.29(土曜)午後3時より |
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会場 | 於:長野県立こども病院大会議室 |
プログラム
開会 | 15:00 開会 代表世話人:松本歯科大学口腔顎顔面外科学講座 古澤 清文 |
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特別講演 | 15:10~16:10 大阪府立母子保健総合医療センター口腔外科 西尾順太郎先生 「大阪府立母子保健総合医療センターにおける口蓋裂治療の変遷と課題」 司会:信州大学形成外科 松尾 清 |
総会 | 16:10~16:20 |
休憩 | 16:20~16:40 |
一般演題 | 16:40~18:30 座長:信濃医療福祉センター言語療法室 阿部 愛子 長野県立こども病院形成外科 野口 昌彦 |
特別講演
口蓋裂治療の主目的は患児に良好な発音機能を賦与するとともに、顎の成長発育障害を可能な限り抑えて、良好な咬合を営ませることにある。口蓋裂初回手術として従来用いられてきたPushback法は言語成績の面からみればきわめて安定した成績が得られる。しかし、硬口蓋の広範な骨露出が上顎骨の前下方成長発育を著しく阻害することは周知である。一方Zurich方式のごとく軟口蓋閉鎖を1歳代に行い、硬口蓋閉鎖を4、5歳まで延期するという治療方法は顎の成長発育にはすばらしい成績が得られるものの、言語成績は従来のPushback法に比べて劣ることは否めない。このように口蓋裂治療の根幹となるべき手術法の選択についても未だ多くの問題点を抱えている。過去12年間に施行した420例の口蓋裂初回手術を顧みて、治療成績を明らかにし、顎成長発育障害に対する演者の取り組みについて述べたい。
1.唇顎口蓋裂手術後の声門破裂音の改善についての症例報告
長野県立こども病院リハビリ科 ○大池 清朗
現在、5歳5ヶ月になる女児。知的な面での問題はみられず、構音面以外の言語発達については問題のない症例であった。2歳頃から声門破裂音が出現した。コミュニケーション態度には問題が無く、お話好きである。前任者からケースを引き継いで構音訓練を継続中である。5歳頃から構音面の改善が著しい。これまでの訓練経過を中心に報告する。
2.ボーダーラインの先天性鼻咽腔閉鎖不全に対する手術治療の効果
信州大学医学部形成外科 ○長田 佳郎、近藤 昭二、松尾 清
長野県立こども病院形成外科 野口 昌彦
長野県立こども病院リハビリ科 大池 清朗
長野県リハセンター言語療法科 古川 博
多くの単音や、単語レベルで比較的正確な構音が可能だが、特定の音や文章、会話レベルで鼻咽腔閉鎖不全により構音障害が目立つボーダーラインの鼻咽腔閉鎖不全に対する手術治療は、手術の適応、効果、合併症の問題から、従来あまり行われていないと考える。しかし、鼻咽腔形態に異常を認める症例では、言語訓練だけで良好な構音を獲得することは難しい。手術治療の適応に迷う2例の先天性鼻咽腔閉鎖不全症例に対して、咽頭後壁への肋軟骨移植による鼻咽腔形成術を行った。2例とも、術後構音の改善がみられ、大きな合併症もみられなかった。適応を慎重に選択する必要はあるが、ボーダーラインの先天性鼻咽腔閉鎖不全症例に対する手術治療は効果的であると考えられた。
3.口腔顔面の緊張除去による、成人鼻咽腔閉鎖不全症例術後の言語治療
諏訪赤十字病院言語療法科 ○長谷川 和子
4.パーソナルコンピュータを用いた音声分析:第1報
信州大学医学部形成外科 ○菊池 二郎、近藤 昭二、松尾 清
口蓋裂児の言語訓練においては、合併する聴力、語音弁別力、精神発達、患児の年齢などの問題で、聴覚によるフィードバックが十分行えず、言語療法に苦慮することがある。パーソナルコンピュータを用いて、音声を視覚的に表現し、視覚からのフィードバックによる言語治療を目的とするソフトの開発を試みている。今回は母音発声時を例にとり、音声の視覚表現による治療の可能性について報告する。
5.佐久総合病院歯科口腔外科における口唇口蓋裂児に対する歯列・咬合形成治療
佐久総合病院歯科口腔外科 ○飯野 光喜、村上 夏帆、堀内 俊克、新津 恒太
口唇裂口蓋裂児の顎発育誘導および咬合形成治療は口蓋裂治療の歴史の中では比較的新しい分野である。口蓋裂児の咬合育成を行う要点は、口蓋形成術によって生じる上顎骨の成長抑制を矯正歯科的手法により最小限にとどめつつ、適切な時期に顎裂部骨移植術を行いさらに術後矯正治療により正常咬合を形成することである。本発表では佐久総合病院歯科口腔外科における口蓋裂治療の一端を紹介する。
6. 顎発育と言語成績を重視した口蓋裂初回手術
信州大学医学部形成外科 ○近藤 昭二、杠 俊介、松尾 清
長野県立こども病院形成外科 野口 昌彦
長野県立こども病院リハビリテーション科 大池 清朗
長野県身障者リハセンター言語療法科 古川 博
口蓋裂初回手術において、良好な言語成績とともに良好な顎発育を獲得することを目指して、現在以下の方法で手術を行っている。
軟口蓋にはFurlow変法を行う。口腔側延長は大口蓋動脈を栄養枝とする粘膜弁をpushbackすることで行う。鼻腔側延長は、Z形成のみもしくは、Z形成の間に頬筋粘膜弁を挿入して行う。鼻腔側のPushbackは行わない。硬口蓋は上茎のvomer flapで鼻腔側を閉鎖する。一次口蓋は、披裂縁の粘膜弁をhingeして閉鎖し、骨膜は顎裂骨移植術のために温存する。口腔側に生じるraw surfaceは頬粘膜からの粘膜移植術を行い、どこにもraw surfaceは残さない。
1996年から1999年までに、この方法を用いて手術を行った症例は60例(UCLAP25、BCLAP5、ICP21、SMCP7,VPIP2)あり25例が言語評価可能であった。鼻咽腔閉鎖不全を生じたものは2例 (UCLAP1、VPIP1)であった。顎発育は経過観察期間が短く、統計的には検討していないが、同年齢では従来法(Pushback法)に比較して、明らかに良好であった。