過去の研究会
第2回研究会プログラム
日時 | 1998.1.23(土曜)午後3時より |
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会場 | 於:信州大学第2臨床講堂 |
プログラム
開会 | 15:00 開会 代表世話人:信州大学医学部形成外科 松尾 清 |
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特別講演 | 15:05~16:15 神奈川県立こども医療センター形成外科部長 鳥飼勝行先生 「口蓋裂手術の顎発育と言語成績」 司会: 佐久総合病院形成外科 大谷津恭之 |
総会 | 16:15~16:30 |
休憩 | 16:30~16:40 |
事例ならびに症例検討会 | 16:40~18:00 座長:諏訪赤十字病院言語療法科 長谷川和子 |
1.口蓋形成術に伴う口腔鼻腔瘻孔閉鎖床について
松本歯科大学口腔外科第二講座 ○田中 仁
硬口蓋の発育抑制を避けるために一期的に裂を閉鎖しない二段階手術法が注目されるようになり,残遺瘻孔閉鎖床は一連の口蓋裂治療に不可欠なものになっている。一般に乳児期の口蓋閉鎖床は,固定を乳歯に求める。ところが歯列矯正を開始する学童期では,矯正装置との兼ね合いから閉鎖床の装着が困難になりがちである。今回は,歯列矯正装置と閉鎖床を併用した患者の言語成績を中心に,歯科矯正治療についても述べさせていただく。
2.正常構音獲得に難渋した先天性鼻咽腔閉鎖不全の症例
長野県立こども病院言語療法科 ○古川 博
信州大学形成外科 近藤 昭二
正常構音獲得に難渋した先天性鼻咽腔閉鎖不全の症例を供覧する。他院での手術・言語訓練の後,当院に紹介となり,言語評価,手術,言語訓練を行った。当院での手術後,/a/構音時に鼻咽腔閉鎖機能良好となったものの,他の母音及び子音においては鼻漏出が認められた。
患児は乳児期にはshuffling(いざり)があり,現在も肩甲帯,舌骨周辺筋群の過緊張があり,年齢に比して全身の協調運動不良や口腔顔面運動の拙劣さが目立つ症例であった。
そこで,鼻咽腔閉鎖機能を賦活化させるためにblowing,含嗽等の訓練を行うと同時に,筋緊張を軽減させるために肩甲帯,舌骨周辺筋群のストレッチングを実施して,/k/, /g/の構音訓練を実施した。訓練当初は声門破裂音を呈していたが,その後咽頭破裂音が認められるようになった。/k/, /g/の構音点は本来軟口蓋だが咽頭と接近しているため,目標音獲得の順位を/s/, /t/と構音点が離れたものに変更してさらに訓練を行った。
行った訓練プログラム,患児の構音の変化,訓練中に使用したpalatal liftの有用性などにつき検討を加え供覧する。
3.声門破裂音を認めた症例の訓練
上智大学 ○岡崎 恵子
鮎瀬矯正歯科 鮎瀬 節子
昭和大学形成外科 大久保 文雄
症例は左唇顎口蓋裂の5歳男児で,唇裂は生後1ヶ月,口蓋裂はPushback法により1歳6ヶ月に行われている。術後,瘻孔が残存し,閉鎖床を装着し,2歳3ヶ月から訓練を行った後,4歳7ヶ月の時点で紹介されてきた。
初回評価時で開鼻声(+-),/ k, t, t∫, ts /が声門破裂音,d / g, d / dz, h/sが認められた。瘻孔閉鎖床を新たに作成し,1998年5月より原則として1ヶ月に1回,構音訓練を行った。
現在(5歳3ヶ月)までに10回訓練を行い,声門破裂音は音節,単語の段階では改善し,現在,音読の訓練に入っている。
本児は,中医の集中時間が短いこと,訓練が月に1回と限定されていること,鼻咽腔閉鎖機能が軽度不全であること,瘻孔が残存していることなど構音障害の改善を妨げる要因がいくつか重なっていた。しかしながら,訓練によってかなりの改善が得られたことから,STは構音障害がある症例に対して積極的に訓練を行うべきであると考えている。本症例に対して,今後は習得した音の般化を図るとともに,顎裂部の骨移植,瘻孔閉鎖,歯列・咬合の矯正治療を形成外科医,矯正歯科医と連携しながら行っていく予定である。
4.鼻咽腔閉鎖面を考慮した咽頭弁手術
信州大学形成外科 ○近藤昭二、杠 俊介二、松尾 清
長野県立こども病院形成外科 野口 昌彦
長野県立こども病院言語療法科 古川 博
諏訪赤十字病院言語療法科 長谷川 和子
長野赤十字病院言語科 林 耕司、吉原 悦子
咽頭弁手術では,鼻咽腔閉鎖面と咽頭弁の位置に微妙なずれを生じやすい。また,咽頭弁の縫合位置が左右にずれて固定されやすい。これらの問題を解決するために,咽頭弁施行時にFurlow法を先行して行い,口蓋帆挙筋を後方に移動し,口蓋帆挙筋の前方に咽頭弁を縫合することにより,口蓋帆挙筋の収縮方向に咽頭弁を重ね,咽頭弁が鼻咽腔閉鎖面に一致するように手術を行った。
成人2例と小児4例に2次手術として行った。術前の画像評価でSagittalもしくはCircularの閉鎖様式で,軟口蓋の前後運動が不良な症例を対象とした。小児4例中3例は精神運度発達の遅れを伴う症例であった。咽頭弁の幅と咽頭後壁における挙上位置は,鼻咽腔造影レントゲン写真上で計測を行い決定した。Furlow法で後方のZ皮弁と筋層の再建を行った後,上方茎の折り畳み咽頭弁を前後のZ皮弁の間に挟み込んで縫合する。視野が良好であるため,縫合時に咽頭弁の両側の位置も正確に固定できる。
術前術後に画像評価,ならびに言語評価を行い比較を行った。全例で画像上,鼻咽腔閉鎖機能の改善を認め,構音は開鼻声,鼻漏出による子音の歪みがともに改善した。合併症は術後早期の睡眠時無呼吸や,慢性的な鼻閉感など従来の咽頭弁同様であったが,閉鼻声を生じた症例はなかった。
本法は,咽頭弁の位置を軟口蓋の挙上方向に強制的に一致させるので,咽頭弁手術として合理的である。咽頭弁が避けられない症例では,正確な術前評価を併せて行うことで,確実な効果の期待できる方法と考えられた。